050301 ランダム
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鱗羽

鱗羽

空間ベクトル1-1〔遭遇〕

 遭遇

初めて会ったのは私が大学二年の、新入生勧誘の時期だったから四月くらいだったと思う。我ながらよくも覚えているものだと、半ばあきれてしまう。
「チラシ…欲しいんですけど。」
弓道着姿で勧誘チラシを配っているときに声をかけられた。
「経験者の方ですか?」
「そうですが…今何人くらいいるんですか?」
「…13人くらい、かな。あ、四年生を入れると22人?」
「入りませんか?」
「考えておきます」
そう素っ気無く答えて彼はその場を去っていった。…にしても目つき悪かったな、あの人。

既に活動シーズンに入っていて毎週末は他大学との試合が控えていた。数日後、授業の空き講に練習しようと道場に顔を出したらあの時の彼がいた。(居るよ…入部したのか…?)在校生ガイダンスを終えたその足で、私は同じ経済学部の伏見さゆみと共に大学の近くの古本屋に立ち寄った。
「あ、周防サンに伏見サン、今日は。偶然ですね。」
古本屋の出入り口付近で突然声をかけられた。
「っあ、片瀬じゃないか。」
「教科書買いに来たんですか?」
「うん。私は片瀬がこの古本屋の存在を知っていたことに驚きを感じるよ。」
「高坂さんが教えてくれたんです。」
高坂サンは私よりも1つ年上の三年生の先輩で現在部の主将を務めている。外見は長身でスラリとしていて、目つきが鋭く、近寄りにくい雰囲気をいつも醸しだしているが、中身はギャップを感じるほど人懐こくて、寂しがり屋で(自称)お人好しである。
部では一番人気があり、なんだかんだ面倒くさがる節があるが、面倒見は良い方だ。

「突然なんですけど、周防さん方って去年、社会思想史取ってましたか?」
「社会思想史って柘植先生だよね?左利きの…」
「はい、左利きの眼鏡の関西弁です。」
「うん、取ってたよ。」
「教科書ってまだ持ってます?」
「あるよ」
「くれ」
「……。」
彼は発言と同時に私の目の前に両手を突き出して要求の仕草をした。
…おいおい何故いきなり口調がタメ口なんだよ、こいつ。否、周防、こういう些細なことをいちいち気にするようじゃ人間まだまだだぜ。私は口元を持ち上げて笑いながら言った。
「…それは人に物を頼む態度じゃあないな。」
「く…ください」
話しているとなんでか調子狂うな。

その違和感の原因は後に知ることとなる。
03/11/4
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